水素最前線

水素の歴史から最新の研究や
取り組みを解説

水素の
研究

水素水の歴史を紐とくと。
今では、水素は、医療分野はもとより、
スポーツ科学やダイエット、
美容など幅広い分野で
活用が広がっています。

水素の研究は始まったばかり

現在、水素医学研究の第一人者として知られる日本医科大学の太田成男教授が水素の研究を本格的に始めたのは、2005年。ほんの10年前のことです。
太田教授は元々物理化学の出身ですが、細胞生物学やアンチエイジングの研究を進めるベースとして、40年ほど前からミトコンドリアの研究に取り組んでいます。ミトコンドリアは、私たちが生きていくために必要不可欠なエネルギーをつくっている細胞内の小器官ですが、その詳しい仕組みはわからないことだらけでした。研究を進める中でわかってきたことの一つは、活性酸素によって細胞が酸化されて傷つくことは、老化や病気と密接な関係があるということです。
やがて太田教授は、培養細胞の中で活性酸素を発生させても、水素があれば培養細胞がダメージを受けないことを発見。これにより、水素が細胞障害性の高い活性酸素(悪玉)だけを消し、一方で生理学的役割を持つほかの活性酸素(善玉)には反応しないという、人体にとって非常に都合のいい働きをすることを突き止めました。

水素の革命的な力の発見

2007年5月。医学雑誌の最高峰『Nature Medicine』に、太田教授らによる論文が掲載された、というニュースが世界を駆け巡ります。その内容は「水素ガスが、タンパク質やDNAにダメージを与え生活習慣病などの原因となる活性酸素を選択的に除去できることが、動物実験で突き止められた」というものです。
『Nature Medicine』という雑誌に掲載されることがいかに困難かというと、実験が正確であることや重要な研究結果であること、将来性のある研究であることは必須条件で、さらに面白いということが求められます。「様々な病気の予防や治療に活用できると期待される」という画期的な研究成果の発表は、NHKの朝のニュースをはじめ、新聞各紙の朝刊でも大きく取り上げられます。それは「水素の時代」の幕開けともいえる瞬間でした。
その後、世界中で水素の医学的研究が進められ、発表論文は年々増え10年間で400報以上、しかも臨床試験も行われるという驚異的なスピードで研究されています。現在、水素は、医療分野はもとより、スポーツ科学やダイエット、美容など幅広い分野で活用が広がっています。

「良すぎる」メカニズムの解明

水素は特定の部位だけではなく、悪玉活性酸素が強く作用しているところを調整するという従来の薬にはない性質を持っています。頭痛薬は胃には効かない、降血圧なら飲み過ぎると血圧が下がりすぎる、つまり副作用が起きる、というのが従来です。ですが、水素は悪いところに作用し、ちょうど良い状態にするという、ちょっと「良すぎる」効果があります。
また、水素の研究を始めるまでは、酸化・炎症・アレルギーはそれぞれ別々に発生するものだと考えられていましたが、この3つは密接に関わり合っており、水素にはこの負のスパイラルを断ち切る働きがあることがわかってきました。
水素が悪玉活性酸素を撃退すると、ミトコンドリアが改善され悪玉活性酸素が生じにくい体質になる、病気だった体が本来の治癒力を取り戻すなど、多くの複雑な働きが生じます。このように体質が変わるのは、水素が遺伝子のスイッチを調整していると説明できます。
こうしたメカニズムを一つ一つ紐といていく地道な研究は、現在も続けられています。この研究は水素が健康や美容に良いというだけの小さな意味ではありません。命のメカニズムというのは複雑ですが、「水素」という道しるべから、多くの生理現象や生命維持のメカニズムが明らかにされ、次の医学史を紡ぎ、明日の人類の一歩となる可能性を秘めています。

水素研究の最先端情報

水素は、健康の役に立つ活性酸素には作用せず、悪玉活性酸素「ヒドロキシルラジカル」と結合し、還元することで、無害な水にします。
これまで水素は、悪玉活性酸素だけを選択的に消去する抗酸化物質ということはわかっていたのですが、抗炎症作用や遺伝子の発現に関わることはどのようなメカニズムか明らかにされていませんでした。

今回の研究発表のPOINT

水素のより詳しいメカニズムが解明された!!

  • 水素が細胞のどこにどのようにアプローチするのかがわかった。
  • 水素が「遺伝子」の働きを調整する。
  • 水素が細胞膜の脂質がさびるのを防ぎ、カラダが悪い状態になるカギとなる物質を作らないようにする。

2016年1月、太田教授のグループは、英国の科学雑誌に「分子状水素が遺伝子発現を制御するメカニズムの解明」についての論文を発表しました。
これは、水素が多彩な機能を発揮するメカニズムを解明する画期的な研究報告で、水素の医療分野への適用を促進することが期待されます。
今回注目したのは、生体膜に多く含まれる不飽和脂肪酸の一種のリン脂質(PAPC:1-パルミトイル-2-アラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン)。精製されたPAPCを、フリーラジカル連鎖反応によって化学的に酸化する際、1.3%以上の水素を存在させるだけで、酸化PAPCによる培養細胞への細胞内情報伝達を担うカルシウムの流入が低下することが確認されました。
さらに、網羅的遺伝子発現解析により、水素存在下で酸化されたPAPCは様々な遺伝子発現を変化させることが明らかになっています。とくに、NFATと呼ばれる転写因子の活性を低下させ、様々な遺伝子発現を制御しうることが明らかになったのは、注目すべきことといえるでしょう。また、培養細胞でフリーラジカル連鎖反応を人為的に生じさせた場合にも同様の結果が得られたことから、細胞内でも上記の反応が生じていると考えられます。

水素は、不活性であるが故に、酸化ストレスがないときは効果を発揮せず、フリーラジカル連鎖反応が亢進しているときだけ効果を発揮すると考えられます。このメカニズムの解明により、従来説明できなかった水素の効果の多くが説明できるようになりました。

この研究は、英国のNature出版社のOpen Access Online科学雑誌「Scientific Reports 6, Article number 18971 2016年1月7日」に掲載されました。
www.nature.com/articles/srep18971
(本論文(英文)はどなたでも無料で読む事ができます)